#BodyHairPositive INTERVIEW

#「そもそも、ムダ毛というのものは存在しない。」

性教育の第一人者・村瀬先生と考える #BodyHairPositive

ボディヘアをどう捉えるかは、自分次第。そこには、幼少期に親御さんから言われたことや、思春期の思い出が大きく関係しているという声が聞かれます。若いうちから自分の身体を肯定し、健やかに生きるにはどうすれば? 2020年に発売された『おうち性教育はじめます』(KADOKAWA)が大ベストセラーとなっている、性教育の第一人者・村瀬幸浩先生にお話を伺いました。

コンプレックスは他人に「持たされる」もの。だから、自己受容の気持ちを大切に

まず、前置きになるのですが。僕は90年代初め、毎日中学生新聞の連載で読者のお悩み相談に答えていました。本にもなっているのですが(*)、その中にも「女の子なのに毛深くて困る」という中学生の相談があります。彼女は、胸と胴の間に手や足と同じくらい濃くて長い毛が生えて困っていると。それで脱毛したら良いか、脱毛するならどんな方法が良いか教えてほしいというんです。そのときは、シェービングや脱毛ワックスなど具体的な対処法を明示しつつ、最終的には自己受容が大切だと結びました。これは、自分のことを肯定し受けいれていこうということ。
(*『性・からだ・こころ―悩みはポイ!』(東山書房/1993年))

当時、僕のもとに届く女の子の悩みの中でも特に多かったのが「太りすぎ」「色が黒い」「毛深い」でした。これがトップ3。生理に関する悩みも多かったけれど、それは自分自身にしかわからないことじゃないですか。でも、先ほどの3つは“他人からどう見られるか”が悩みの根っこなので、自分で自分のことを受け入れられないといつまで経っても解消されないんですよ。しかも、体毛はホルモンの働きによるものなので、自分の意思や努力でどうすることもできません。だから、“人がどう思おうと、これが私なんだ”と肯定して生きることが大切なんです。

30年近く前にそんな話をされていたとは……! #BodyHairPositive の考え方にも重なります。一方で、それだけ時間が経った今も、問題が解決していないことに驚きます。

最近は、強迫観念的に脱毛を勧める広告も多いですよね。僕も電車で目にします。現代において、コンプレックスは誰かに「持たされる」ものになっている。知らなければ気づかなかったのに、不安を煽られることによって「このままじゃいけないのかしら?」と思わされてしまう。思春期のうちは特にそうですよ。

いちばん良くないのは、“ねばならない”と言い切ってしまうこと。Mustは自分らしく生きていくうえでやっかいな言葉です。むしろWish、“こうしたい”という気持ちの方が大切。

体毛の認識の問題は、性教育も関係していると思います。成人男性でも「女性は毛が生えない」と思っている人が一定数いるそうです。女性の家の洗面所をカミソリを見つけて驚くこともあると。

そもそも人間の身体には男性ホルモンと女性ホルモンが存在していて、それぞれの働きの中で毛が生えるんです。そういう仕組みを子どもの頃にきちんと教えられていないわけですね。そして、そもそもムダな毛というものは存在しないわけじゃないですか。たとえば腋毛はリンパ、性毛は性器を守るためにあるものですが、いつしかムダなものになってしまった。

しかし、まあ……体毛程度で引くような男は相手にしない方が良いですよ(笑)。これは体型に関する悩みも同じですが、目に見えることだけですべてを判断するような人と付き合ってしまったらダメ。お互いに目を見て話せるとか、いつも笑顔で安心していられるとか、そういう人間同士の付き合いがきちんとできるかで判断しないと。

自分が思っている以上に他人は自分のことを見ていない

異性からよりも、女性同士の目線が気になるという声もあります。

男性間で権力闘争が起きるのと同じく、女性間でも美の競争が起きているわけですね。それは、世間の目がそうさせている面もあるのでは。僕の妻も「出かける際は1時間以上準備の時間がほしい」と言うのですが、それも自分がどうというより、「周りからの目が気になるから、きちんとしたい」という気持ちが強いようです。日本にはハレとケという素晴らしい考え方がありますが、それがかえって呪いになっているわけです。

美を娯楽として楽しむのはいいですが、強迫観念にしてはならないなと。そのような価値観を解きほぐしていきたいのですが、とくに若い世代に対してどう伝えていくのがよいでしょうか?

ポジティブな意味で、「自分が思っているほど他人はあなたのことを見ていない」という認識が広まっていくといいですよね。そして、他人の意見に惑わされることなく、自分がポジティブでいられるためにはどういう状態が心地良いのかを基本にして考えていくことが大切だと思います。それが自己受容にもつながるので。際限のない欲求不満の罠にはまらないためにも。

すべては自分の身体のことだから。親子でもパートナーとも、もっと気軽に毛の話を

もう少し若い世代のお話もさせてください。最近は、お子さんを脱毛サロンへ通わせることもある そうです。親御さんの思いやりの形のひとつとして、村瀬先生はどう感じられますか?

同意の問題ですよね。この場合、子どもが不同意を示すのは極めて難しい。なぜなら、親が自分ではいいことだと思ってしていることだから。

「あなたのためを思って」ということですよね。

そう。でもこれ怖い言葉ですよね。親は子どもにああしろこうしろと。それに対して、本当なら同意と不同意は並列でどちらを選択してもいいのに、実際はそうではない。肯定するときは何も説明は求められないけれど、否定するときには理由を言わされるんです。「どうして嫌なの?」と。子どもの不同意=反抗と思われてしまう。

だから立場とか年齢が違う場合、対等な意見を言うことはできないし、言わない方が楽なんですよ。日本はとくに、そういう同調圧力が強いんです。意見を言うと叩かれる社会構造になっている。そんな関係性が、子どもが望んでいるわけでもないのに脱毛サロンに通わせる親の問題にもつながっている気がします。だから、親がきちんと不同意を許せるようになることが大切。その経験の積み重ねによって、子どもの選択する力は身についていくと思います。

家族間でも同じですね。パートナーとも、友達とも。身近な人同士で、もっと気軽に毛のことを話せる世の中にしていきたいと思います。

いいですね。話して悪いことは何もないですからね。すべて、自分の身体のことなんだから。

「毛について話そう。」というテーマを、今後も推進していく勇気をいただきました。本日はまことにありがとうございました!

(構成:村上広大)

村瀬幸浩

東京教育大学(現筑波大)卒業後、私立和光高等学校保健体育科教諭として25年間勤務。この間、総合学習として「人間と性」を担当。同校を退職後、25年にわたり一橋大学、津田塾大学等でセクソロジーを講義した。現在一般社団法人“人間と性”教育研究協議会会員、同会編集による『季刊セクシュアリティ』誌編集委員、日本思春期学会名誉会員。ちなみに、Schick製品は20年ほどご愛用いただいているそう。「僕は無精髭が嫌でね。電気シェーバーも試したことがあるのですが、剃り残しがある気がして。今でもカミソリで剃っています」