Special Column #02

現代に引き継ぐ、侍の魂。
伝統的な技法を継承し、日刀保たたら操業により
作成された玉鋼
シック製品の剃り味は、
日本伝統のYSSヤスキハガネから。

シックのブレード(刃)の剃り味を支える技術の一つが、日本刀の素材となる玉鋼をルーツに持つ日立金属のYSSヤスキハガネ。生産工場がある島根県安来市は古来、出雲と伯耆(ホウキ)の鋼を積み出す港町として栄えてきました。中国山地の花崗岩に含まれる良質な砂鉄の真砂砂鉄は不純物がきわめて少なく、また、木炭の燃料となる森林も豊富であったことから、古くから日本独自の発展を遂げた「たたら製鉄法(砂鉄と木炭を土で築いた炉の中で燃焼させて鉄を得る製鉄法。3日間不眠不休で作られる)」によって「玉鋼」に精練され、千年以上の歴史を持つ刀匠の伝統技術に鍛えられ、日本刀に仕上げられていました。いにしえよりこの地で生産される鋼は硬く、いろいろな道具を作るのに最適であるとその優秀性が語られ、最盛期の江戸時代後半から明治初期にかけて、全国のおよそ8割の鉄がこの地を中心とした中国山地の麓で作られてきたという歴史があります。

しかし、明治に入り各種の産業が盛んになると鉄鋼需要が伸び、近代製鉄法による安価な鉄鋼が輸入・生産されるようになり、量産に向かないたたら製鉄法は衰退してしまいます。これを危惧したたたら経営者らが「雲伯鉄鋼合資会社」を設立し、幾度かの社名変更を経て、現在の日立金属株式会社安来工場となりました。

高級特殊鋼の分野で世界トップクラスのシェアを誇るYSSヤスキハガネのプレス工程。
YSSヤスキハガネはカミソリの替刃としても使用される。

日立金属では、たたら製鉄法の伝統を受け継ぎつつ、最新の技術を取り入れ、厳重な品質管理のもと、高品質の鉄鋼を生産しています。社員一人ひとりが、歴史あるたたら製鉄の精神を伝承することに対して誇りを持ち、難易度の高い要求にも果敢にチャレンジし、ものづくりに真摯に向き合っています。このような背景から、ここで生産されるYSSヤスキハガネは、カミソリ替刃、工具鋼、自動車エンジン部材、エレクトロニクス分野の新製品など多種多様な用途に使用され、国内はもちろん、アメリカをはじめヨーロッパなど世界に輸出され、技術革新に重要な役割を果たしています。

シックのアメリカ工場では、1970年代からこの日本伝統の技と精神を継承するYSSヤスキハガネを、4枚刃、5枚刃のプレミアムカミソリ製品で原材料の一部として採用しています。日立金属の安来工場では、ニーズにきめ細やかに対応するため、量産鋼で採用される連続鋳造法とは違い、インゴット鋳造法によるカスタムメイドで製造。原料の溶解から0.1ミリ程度の薄い板に圧延し、カットするところまで手がけています。替刃のなかでも、4枚刃、5枚刃を作る特殊鋼は特に高度な技術により、製造されています。その後、シックの工場でさまざまなテストを繰り返しながら、クオリティの高いカミソリの替刃に加工されます。世界のシック製品に、日本の伝統が息づいているのです。

※本文中の引用のYSSとヤスキハガネは日立金属株式会社の登録商標です。

(取材協力:日立金属株式会社、日立金属株式会社安来工場)